平成28年3月2日
自由民主党県議団 宮本衡司
- 平成23年3月12日発生の長野県北部地震について
- 本県の海外展開の強化について
- 本県の林業施策について
◎平成23年3月12日発生の長野県北部地震について
Q 平成23年3月12日未明、東日本大震災の翌日、震度6強の地震が栄村を襲った。多くの建物、農業施設等が崩壊したにも関わらず、直接的な死者が1人も出なかったことは不幸中の幸いだった。
県では、地震の翌月4月に、村民が引き続き「ふるさと栄村」に安心して住み続けられるよう、復旧・復興に向けた本格的な取組を迅速かつ着実に進めるために「栄村の復旧・復興に向けて」という、復興支援方針を策定した。
あれから5年。被災した道路や橋梁などの復旧、住まいの確保に向けた本格的な取組を進めてこられたが、現在までの状況はどのようになっているのか、また、今後、このような災害が発生した場合に、土木施設等の復旧に向けて、どのように取り組んでいくのか。
A(建設部長)公共土木施設については、国道117号北沢橋の橋脚の破損や県道箕作飯山線、清水河原スノーシェッドの崩壊など、県・市村あわせて191箇所、47億6千万円余の被害が発生した。
これら被災箇所では、震災直後より迅速に対応し、平成25年12月には191箇所、全ての工事が完了した。住宅の関係では、全壊、半壊、一部損壊合わせて700棟以上の住宅被害が発生した。栄村には被災者のための応急仮設住宅を2地区に55戸建設し、早急に居住の安定を図った。また、自宅の再建が困難な方々のために、栄村が8地区に整備した震災復興村営住宅31戸の建設において、具体的な計画づくりや国庫補助の増額に向けた取組などの支援を行った。
今後、このような災害が発生した場合には、先ずは、緊急輸送路の確保に努めるとともに、一日も早く安全・安心な生活を取り戻せるよう、被災された住民の皆様の住まいの確保に努めていく。あわせて、道路や河川砂防施設等の迅速な復旧に努めつつ、関係機関とも連携して、被災地域の復興を進めていく。
Q 危機管理体制について、当時はどうであったのか、災害の教訓から何を学び、今後どのように活かすのか。
A(危機管理部長)長野県北部地震発生が午前3時59分という時間帯であったが、各部局の災害対応職員が速やかに参集をして、5時40分には災害対策本部員会議を開催するなど、迅速に初動体制がとれた。日頃の教訓が活きたと認識をしている。
災害から得た教訓とそれへの対応は、まず、最新の知見を踏まえて、「地震被害想定」を見直した。また、被災地からの情報がなくても被害を大まかに算出し、いち早く初動対応をとるための「被害予測システム」を整備した。
甚大な被害が発生した場合には、広域的な応援体制が必須なことから、県内全市町村による相互応援体制を強化し、新たに中央日本四県による相互応援協定を締結した。
情報通信は災害対応の生命線であることから、衛星系防災行政無線の設備更新、情報の集約力・分析力・発信力の強化のため「防災情報システム」を現在整備中である。この他、女性や高齢者に配慮した「避難所運営マニュアル策定指針」の改訂や、全国的な災害ボランティア支援団体ネットワークとの連携、消防力の強化、地域防災力の向上など、様々な面で取り組んでいる。
長野県強靱化計画を年度内に策定するので、この計画を新たな契機とし、「多くの災害から学び、生命・財産・暮らしを守りぬく」という目標を、行政、事業者、県民が一体となって共有し、危機管理体制の一層の強化に取り組んでまいりたいと考えている。
Q 今季は雪も少なく、例年になく穏やかな冬となった。
5年前のあの日」は3月半ばというのに、栄村の積雪は2mもあった。村民は着の身着のままで外に跳び出し、暗闇の中、村役場や集落の公会堂に避難し、身を寄せ合っていた。
蛇口をひねれば水が出、スイッチを押せば暖房が入る。冷蔵庫には溢れんばかりの食材。普段、何気ないことがどんなに幸せだったのか、身に染みて感じておられたのではないか。
県の初動は迅速だった。当日の午後には和田副知事が、翌日には阿部知事が現地に入り状況把握をし、仮設住宅の建設、道路・橋梁・河川等の応急復旧に向け適切な指示・対応をし、その後も知事には折にふれ来村していただいた。
また、東日本大震災と同様な支援措置が講じられるよう、国へ強く要請していただいたことも村の再建に大いに弾みがついたものと感謝申し上げる。
村民は避難所にあっても休むことなく、腰まである雪を掻き分け、山奥の水源池まで辿り着き、自力で水道管の漏水個所を探しあてた。
食料の配給を受ける際も整然と列をつくり、自発的に仮設トイレの清掃をし、不平不満を口にすることもなく黙々とお互いに支えあいながら生活されていた。
ボランティアによる炊き出し、家の片づけ、全国から寄せられた品々、「励ましの言葉」、「人の情け」が身に染みて嬉しかったと、そしてお世話になった方々に感謝の言葉を伝えたい、自分たちはどのような恩返しができるのか、村民は未だに思い続けている。
人と人との支えあいが如何に大切か、皮肉にも震災により私達は教えられた。日本国の基(もとい)、要(かなめ)、原点ともいえる農山村集落を如何に維持・活性化させるか、震災を忘れることなく、更なるお取組みを頂きますよう、改めて知事に要望する。
◎本県の海外展開の強化について
Q 去る1月25日から28日までの4日間、農政林務委員長の荒井武志議員とともに、シンガポール共和国、マレーシアで議員派遣により調査を行ってきた。
短期間ではあったが、本県の実施してきた事業や海外の現状などについて、現地で多くの方々とお会いし、直接御意見を拝聴したことは大変実り多きものであったと実感している。
本県も海外展開に本腰で力を入れ始め、数年が経過しているが、各部において来年度以降、海外展開の強化や促進を図る上で、どのような狙いで、どの国をターゲットに、どのように進めていかれるのか。
A(産業労働部長)昨年10月に大筋合意したTPPでは、関税の撤廃と共に貿易に関する各種手続きが簡素化・標準化されることから、輸出に取り組む県内事業者の裾野を広げる事が重要と認識している。
そのため、産業イノベーション推進本部に県産品輸出促進タスクフォースを設置し、現在関係部局と連携して輸出品目と対象国を絞った「攻め」の検討を行っている。当面の取組としては、アメリカ経済が比較的好調なことから、自動車の生産拠点として、日本の大手企業が進出している、また、TPP参加国でもあるメキシコにおいて、商談会やTPP発効後も見据えた企業支援を行うことにしている。
また、中国経済がやや減速しているとはいうものの、全体として高い成長率が見込まれるアジア地域においては、自動車、工作機械、エレクトロニクス、環境・エネルギーなどの販路拡大を支援するための、展示会やキャラバン隊を派遣し、商談会を展開していく。
食品については、日本食ブームを背景に日本酒、味噌などを中心に、農産物と一体的に販路拡大を図るため、香港、台湾、シンガポールなどでの展示会や現地百貨店等での長野県フェアを予定している。今後、このような取組を、生産団体、流通業界、金融機関、各種支援機関等で構成する「ネットワーク会議」などを通じ、官民が一体となって推進してまいりたい。
A(観光部長)急速に拡大するインバウンドについて、その狙いとしては、第一に、東京、京都、大阪のいわゆるゴールデンルートに集中している外国人旅行者の県内への誘導、そして、第二に、伸びが著しい個人旅行者、リピーターの獲得と考えている。
次に、ターゲットとする国としては、まず、訪日客が急増している中国や登山ブームの韓国を中心とした東アジア市場、そして、訪日旅行ブームが続くタイを中心とした東南アジア市場と考えており、これらの市場に対するプロモーションを重点的に取り組み、県内への誘客を図っていく。
市場別の具体的な進め方、展開方法としては、まず、中国、韓国の東アジア市場に関しては、都市部の山岳、アウトドアの愛好者や健康志向の高齢者を対象として、長野県の強みである「山、アウトドア、健康長寿」を軸に、SNSと紙媒体を併用しながら、誘客を強化していく。次に、東南アジアについては、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアを中心に、都市部の富裕層、中間層を対象として、旅行会社とのタイアップ広告や旅行雑誌への広告などメディアへの露出を高め、NAGANOの認知度の向上と誘客拡大に力を入れていく。
県としては、こうした取組により、個人旅行化やリピーター化など急速に変化する市場の流れを的確に捉えながら、インバウンドの強化に取り組んでいく。
A(農政部長)農産物等の輸出については、意欲的な事業者で構成する長野県農産物等輸出事業者協議会とともに、継続的で安定的な商業ベースの輸出拡大に向け取り組んでいる。対象国は、本県の果樹など高品質な農産物に関心が高く、距離的にも近い、香港・台湾・シンガポールをターゲットとしており、これらに加え、経済成長の著しいタイや、TPP参加国のマレーシアやベトナム等も将来有望なマーケットと考えている。
現在、各国で信州フェアを開催するほか、香港については、大手バイヤーとの取引拡大、シンガポールでは、りんご・米などのテストマーケティング、タイでは消費者嗜好などのマーケット調査を実施しており、来年度は、これら取組を検証し、更なる輸出拡大へ向け取り組んでいく。また、マレーシア、ベトナムに対しては、来年度以降、消費者の嗜好や価格動向、規制措置の状況等を把握するための、マーケット調査を予定している。
Q 県内中小企業等の新規市場開拓・販路拡大を図るため、成長が見込まれる東南アジア、訪日旅行者の増加が見込まれる東南アジア、「長寿世界一NAGANOの食」の積極的な売り込みを広げていく東南アジア、とそれぞれの狙いの中で、これからも県の海外展開の主要ターゲットとして、ASEAN諸国抜きには、到底進めていくことができないものと、認識をしている。
現在、海外展開の拠点として、ハブ機能を最大限活かし、都市国家としてASEAN諸国の中心として発展しているシンガポールに駐在員1名を常駐させている体制である。
その駐在員1名は、進出企業数が多いタイ、進出が増加しているベトナム、発展著しい東南アジアの、今を実感するインドネシア・フィリピン、さらには仏教国で親日の定評のあるミャンマー、そして、今後の発展が大いに期待されているインド などで「展示会やマッチング支援」といった企業の進出サポート。
長野県、信州の魅力を売り出す「観光フェア」や「商談会の開催」、そして「旅行エージェントへのセールスコールや招へい事業」といった観光PR。
加えて、本県の冷涼な気候から生み出される「農産物の海外販路の開拓」のための食品展や物産フェアの開催、そしてその支援。
まさに、産業労働部、観光部、農政部の前線基地として、日本政府関係機関である「自治体国際化協会」、「日本貿易振興機構」、「日本政府観光局」の各シンガポール事務所、さらには県内単独で進出している八十二銀行や県信用組合の駐在員とも連携しながら奮闘しておられると認識をした。
チャイナ・プラス・ワンの流れも加速し、ASEAN諸国は、日本政府はもとより、多くの都道府県が重要な展開先として「しのぎを削る」激戦区でもある。本県のシンガポール駐在は、平成23年11月に設置され、これまで現地で多くの方々と人間関係・信頼関係を築きながら、産業・観光・農産物と、それぞれターゲットや進捗段階が異なる施策のすべてにおいて、本県の海外展開の窓口となっている。
各部において、ASEAN諸国が共通のターゲットではあるが、今までの施策の成果や各事業の進展状況によって、海外展開は、重点とする国やアプローチの方法など、駐在員の設置時に比べ、多様化している段階ではなか。
企業進出に重点を置く国、観光誘客に重点を置く国、農産物の輸出拡大に重点を置く国、そして、それぞれの施策としては、今までの取組の充実や拡大、発展、新たな試みの試行など、より効果的なアプローチを行っている状況であると認識している。
現在、シンガポールを拠点とした海外駐在員1名の配置で、現地での活動を全て担っているが、施策によってターゲットとする国が異なり、施策の進展段階が多様化してきた状況に鑑み、今後の海外駐在員の体制やその強化について、どのように取り組んでいくお考えか。
A(産業労働部長)県の「国際戦略」では、成長著しいアジア振興国、ASEANを中心とした県内事業者の積極的な海外事業展開を支援することとしている。このため、上海とシンガポールに駐在員を配置し、企業のビジネスマッチングや長野県製品の販路開拓、海外観光客の誘致などを進めている。しかしながら、中国経済の減速や、TPPの大筋合意など経済環境に変化がみられるとともに、業務量も増えていることから、駐在員のあり方も含め、事業の推進に工夫を加えていくべきと考えている。
また、全ての拠点に駐在員を配置するわけにはいかないので、ジェトロや自治体国際化協会、各国にある長野県人会や企業会、さらには現地の長野県関係者のご協力を得ながら、より効率的で効果の上がる取組を常に考えて進めていきたい。
なお、新年度は、アジア地域から交流員を招へいし、現地の商慣習など現地情報の提供や、商談会の企画・実施などを通じた、海外販路の拡大や現地企業との連携等の取組を進めていくこととなっている。この面で駐在員の負担軽減を図ってまいりたい。
Q シンガポール駐在員は現在3代目だが、海外展開の施策は、今までの現地での事業展開の礎の上に、更に充実強化を図り、より発展させ、その効果を引き出していくことが肝要である。
駐在員1名体制では、今まで培ってきた人間関係を、切れ目なく活かし発展させていくことは、なかなか困難な状況かと思う。 そのため、駐在員の配置にあたっては、育成や配置方法など通常の人事異動とは異なる措置をとるべきではないかと思う。駐在員の育成や引継ぎなどどのように進めていかれるお考えか。
A(産業労働部長)海外駐在員が代々培ってきた現地での人的ネットワークを継続して発展させることは、県内企業の海外展開を支援する上で大変重要と認識している。そこで、専門性や継続性を高めるため、概ね4年間という比較的長い期間、駐在させるとともに、引継ぎの際には現地で一定期間前任者と行動をともにし、現地でのネットワークや、実務面での知識やノウハウの習得、継承に努めている。
また、駐在員予定者は、赴任の半年前に産業労働部に配属され、国内での語学研修や、海外進出企業などとの連携関係を赴任前に習得することも実施している。また、駐在員の配置にあたっては、健康・体力や、危機管理能力のほかに、現地の社会に入り込んでいく「チャレンジ精神」や、何よりも現地の方々との信頼関係を構築する能力などを見ながら選抜したいと考えている。
今後とも、海外展開支援の充実に向け、駐在員の育成や引継ぎ方法についても、常に見直しや工夫を行っていく。
Q さらに、知事提案説明の中で、これまでの取組成果をいかしながら、海外との更なる交流連携を推進するため、有識者も交えた「国際交流戦略推進本部(仮称)」を設置するとともに、国際担当部長を新たに配置し、部局横断で国際的な業務に対応する体制を強化するとしているが、今後の海外展開について、この推進本部(仮称)ではどのように対応していく予定か。
A(県民文化部長)議員御指摘の経済分野における海外展開については、今後、どこの地域とどのような分野で交流を進めることが、より効果的な取り組みとなるのかが大変重要な視点ですので、この本部において、全庁的にその戦略を検討していきたいと考えており、全庁的な調整機能を果たす中で、具体的な成果につながるよう取り組んでまいりたい。
Q 海外展開は、中小の民間事業者にとって、事業移転はリスクを伴う大きな投資であり、TPP協定のメリットを生かす農業分野での販路開拓は、喫緊の課題でもある。
新たな行政需要には、人的資源も含めて、県がその支援に全力で取り組んでいただき、サポートする体制は大変心強いものである。
所管部局において必要な施策をしっかりと執っていただくことはもちろんであるが、現地での信頼関係は、フェイス・ツー・フェイスが基本であり、トップセールスも一過性ではなく回数を重ねることで、波及効果が期待できると現地の事業者の御意見も頂戴した。
国際担当部長には、「国際交流」という幅広い使命・役割の調整のみではなく、駐在員とともに現地に足を運んでもらい、熱心な事業展開されることも期待する。限りある予算と人員ではあるが、これからの長野県産業の発展の基幹としていきたい海外展開について積極的な対応を要望する。
◎本県の林業施策について
Q 大北森林組合の補助金返還における基本的な考え方について伺う。今議会においても多くの議員から質問が出ているが、大北森林組合の補助金不適正受給事案については、これまでの4回にわたる補助金返還請求により、返還総額は8億円を超える多額となっている。
また、県の補助金等交付規則には、年利にして10%を超える加算金や延滞金を課す規定があることから、請求している補助金元金の返還も容易ではなく、さらに、加算金、延滞金を含めて返還することは、現実的に極めて困難ではないかとも思われる。
国の法令や県の規則には、加算金、延滞金を免除する規定や、履行期限を延長する規定もあるので、こうした手続きも含め、組合が事業を継続しながら補助金を着実に返還するように対応していく必要があろうかと考えるが、大北森林組合からの補助金返還における基本的な考え方について伺う。
A(知事)大北森林組合からの補助金返還については、着実に返還が行われるように取り組んでいきたいと考えている。そのため、組合が作成している事業経営計画における管理費の削減などの徹底した改革あるいは、補助金返還計画の作成を指導しているところ。
現在、組合において、補助金返還計画を作成中であることから、加算金と延滞金の取扱について、現時点で判断する段階ではないと考えているが、宮本議員からご指摘いただいた観点も十分に検討した上で、法令に基づき適切に対応していきたい。
Q 6月5日に開催される第67回全国植樹祭がいよいよ近づいてきた。長野県で全国植樹祭が開催されるのは、昭和39年5月に茅野市八(や)子(し)ヶ(が)峰(みね)において、昭和天皇皇后両陛下の御臨席を賜り開催されて以来、2回目。
昭和39年と言えば、東海道新幹線の開通や東京オリンピック開催などもあり、日本は高度経済成長期の真っ只中であった。急速に経済が発展し、木材需要が急増する中で、新たに木を植えて育てる林業生産の増進が求められていた時代であったと記憶している。
そのような背景の中で開催された前回の植樹祭の成果は、50年余、半世紀の歳月を経て、今、どのようにつながってきているのか。
A(林務部長)昭和39年の全国植樹祭は、木材需要が急増する中で、「入会林野の造林推進」を大会テーマに、15,000人の参加者により12haの原野にカラマツを植栽していただいた。
大会当時は、植えることを中心に植樹祭が行われていたが、その後、昭和52年からは、育てること目的とし、全国育樹祭も行われるようになり、植えること、育てることを通じて、森林の役割や緑化運動の重要性について普及啓発に努めてきた。
現在、県内の多くの森林が、間伐などの手入れを経て収穫期を迎えており、前回大会に植栽したカラマツも、木材として利用できるまでに大きく育っている。今回の全国植樹祭では、昭和天皇お手播きのカラマツから採取した種を、天皇陛下にお手播きいただくとともに、前回大会で参加者が植えたカラマツを、天皇・皇后両陛下にお使いいただく、お手播き箱の一部に使用しており、森づくりと木材利用の循環につながっているものと考えている。
Q 今回の大会の理念の一つに、『植えて・育て・利用する「森林・林業のサイクル」を、取り戻そう』とある。先人のたゆまぬ努力により、いよいよ伐って活用できるようになってきた長野県の森林資源ではありますが、新たに植えて若い森林をつくっていかなければ、資源の持続にはならないわけである。
一方で、森林は長い時間の中で守り育てていかなければならないことから、これを担う人もまた、継承していかなければならない。
森林づくりの仕事に誇りややりがいを持てるような人物が山村地域に根付いていること、そのことが、いつの時代にも求められるのだと思う。 そのためには幼いころ、あるいは多感な時期の経験や記憶がきわめて重要だと思う。
今回の全国植樹祭の一連の取組を通じて、未来を担う子供や若者に何を残したいと考えているのか。
A(林務部長)今回の大会は、式典当日はもちろん、準備の段階から幅広い県民参加に取り組んでいる。特に、子どもや若者の参加は、森林への関心を高め、将来の森林・林業の担い手育成につながるものと期待している。
具体的な取組として、苗木のスクールステイは小学校を中心に県内242校、約12,000人と多くの児童生徒の皆さんに参加をいただき、今大会の特徴の一つとなっている。また、木製プランターカバーやのぼり旗の作製、飾り花の栽培にも大勢の子どもたちに協力いただいている。さらに、式典当日には出演者やアシスタントとして、幼稚園児から大学生まで、約400人に参加いただく。
今回の大会テーマは、「ひと ゆめ みどり 信濃から 未来へつなぐ 森づくり」である。文字どおり、子どもや若者の「ひと」、森林づくりの「みどり」を、「ゆめ」でつなげられるような大会にしてまいりたいと。
Q 全国植樹祭の関連行事として、前日の6月4日には第45回の全国林業後継者大会が開催される。
開催場所は、本年の1月末に完成したばかりの「飯山市文化交流館なちゅら」である。「なちゅら」は、北陸新幹線飯山駅からわずか500mと立地条件に恵まれており、また、2020年開催の東京五輪・パラリンピックの新国立競技場のデザインを手掛ける建築家の隈研吾氏が設計されたことで大変注目を集めている。
新幹線飯山駅舎内同様、カラマツやヒノキなど県産材がふんだんに使われ、また、小ホールの内装には地元の「内山和紙」が使用されるなど、まさに、本大会の開催にふさわしい建物である。
この大会では、第一線で活躍している林業後継者が全国から集い、交流するということで、県内後継者が様々な刺激を受け、意識を向上できる、またとない機会であり、林業を担う人々が山村地域の活性化にどれだけ貢献しているのか、全国に発信できる機会としても重要な大会であると考える。
そこで、今回の全国林業後継者大会では具体的にどのような活動が予定されているのか、また、大会を通じ、全国に向けて何を発信したいと考えているのか。
A(林務部長)この大会は、「人・技・気持ち つなげよう未来へ」を大会テーマに、県内外の林業関係者450名の参加を得て、開催する。
主な内容としては、「育て、活き活き林業人」を基本コンセプトとし、トークセッションを行い、このトークセッションでは、明日の林業を担う若者や、県産材の利用に取り組む団体、デジタル技術を駆使して先進的な林業を実践している森林組合等の皆様に、活動発表をしていただき、林業後継者が、これからの林業に果たす役割について、会場の参加者と意見交換を行う計画としている。
その他、参加者による交流会や、大会会場における県内の森林・林業の紹介、地域の特産物の販売等を予定している。
この大会により、山村地域の活性化や国産材が当たり前に使われる社会の実現に向け、林業後継者が果たすべき重要な役割を全国に発信し、活き活きとした林業を次の世代へとつなぐ契機としてまいりたいと考えている。
Q 申し上げるまでもなく、森林は山地災害の防止や水源の涵養など、我々の暮らしを広く支える働きをはじめ、森林セラピー等保健休養の場の提供、多種多様な生き物の場として自然環境を守る機能、木材をはじめとする林産物の供給機能、さらには二酸化炭素の吸収など地球温暖化の防止等々、枚挙にいとまがなく、木材を利活用することは、循環型社会の構築に寄与するものである。
平成13年、「日本学術会議」が森林の公益的機能を貨幣換算したところ、全国で年間70兆2,638億円と試算された。国民1人当たり年間約58万円、1日1,600円に相当する。因みに、本県は3兆681億円、県民1人年間約140万円、1日3,800円の恩恵を受けている。
森林を整備することは、ただ単に林産業の振興のみならず、山村集落のもつ機能の維持・活性化につながり、ひいては国家の繁栄に大いに寄与するものと思われる。
長野県は県土の78%が森林である。我々は周囲に森林があることを、ごく当たり前のように日々暮らしているが、これらがお金では買えない天然の財産であることを認識し、畏敬の念をもって山の神々達に感謝すべきである。
掛け替えのない森林を「受け、伝え、守り育てていく」ためにも、知事におかれては、全国植樹祭・後継者大会の開催を好機と捉え、県民と共に一丸となって、成功に向け取り組んでいただくよう要望する。
最後に、県職員に採用され、今日まで『林務一筋』にお務め頂き、今年度をもって退職される塩原林務部長に、長野県の森林に寄せる熱い思いを伺う。
A(林務部長)長野県の森林に寄せる思いについてお尋ねをいただいた。本県のカラマツやヒノキ、スギ、アカマツ、広葉樹など多様な樹種からなる森林は、県民の皆様に豊かな恵みをもたらしている。また、その森林の恩恵は、源流の森から発して、川を通じて海にまで達している。とりわけ、先人のたゆまぬ努力により、守り育まれてきた森林資源は、着実に蓄積が増加してきた。これを最大限に活用することが、林業県につながる道であると考えている。
6月5日の全国植樹祭開催まで、あと95日となった。開催理念である「植えて、育てて、利用して、また植える」といった森林・林業のサイクルを取り戻すこと、それを全国に発信する絶好な機会になる。
森林資源の循環を目指す取組として、例えば長野市内では、市民の皆様の主体的な参加により、未来に夢を託す「善光寺の森」づくりが進められている。善光寺の大修理にあたって、300年先にはこの地域からヒノキ、サワラの木材を送り出そうと始めた活動と聞いている。
こうした取組こそが、主体的参加による森林づくりと、県産材の地消地産を進め、それが地域の誇りとなり、森の文化・木の文化となり、森林・林業の循環が生まれ、それを支える技術や雇用が、またその地域に定着するものと考えている。
まさに「ひと ゆめ みどり」、地域の森林と人が強い絆で結ばれた、地道で息の長い森林づくり、次の世代に未来の夢を伝える森林づくりが、50年後、100年後の姿を描きながら、一歩一歩着実に進められるよう取り組んでいく。
本県の林務行政に対し、また、これからの豊かな森林づくりと、林業・木材産業の振興に向け、引き続きご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げ、森林への思いとさせていただく。ありがとうございました。